【インタビュー】清水雅大さん『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』

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農業を始めるのは、何歳からでも遅くはない!『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』では、50歳前後で農業にキャリアチェンジした先輩たちのインタビュー全文を公開。農業キャリアコンサルタント・深瀬貴範氏が、先輩たちが農業に出会うまでのストーリーや奮闘記に迫ります! 


 

【PROFILE】

清水雅大さん
1975年生まれ(東京都練馬区出身)
前職:医療系
青梅にて「とのわファーム」を運営

清水さんは50歳を前にして、まったく畑違いのお仕事から農業に転身。人生の岐路で偶然目の前に現れた農業に興味を持ち、農業の世界に飛び込みました。

現在は「とのわファーム」を運営し、たくさんの種類の野菜を作って消費者のもとに直接届けています。「とのわファーム」の由来は、「人との環(わ)」「地域との環(わ)」。農業をやるうえで「環(わ)」を大切にしたいと思いから名づけたそうです。

 

■目次
1:「俺なんでこの仕事やってんだっけ?」自分探しの旅から出会った農業
2:「農業研修×農業学校」で農業との関りを深める
3:50歳で農業を始めるときに肝心なこと
4:農業に活かせた前職での経験
5:農業の楽しさは「農業×◯◯」の広がり
まとめ

 

1:「俺なんでこの仕事やってんだっけ?」自分探しの旅から出会った農業

 

深瀬 清水さん、前職はなにをやられていたのですか?

 

清水 大手介護医療関係の会社に新卒で入社し、営業企画で10年間頑張りました。そのあと、訪問歯科のベンチャー企業を仲間とともに立ち上げました。それも10年かけて取り組みましたが、前職の知識や経験の成果もあり、順調に拡大。その次は在宅医療の「やまと診療所」の立ち上げに参加し、40歳から46歳までの間で軌道に乗せました。

 

深瀬 順調なキャリアを歩まれていたのですね。

 

清水 しかし、燃え尽きたというか、やり切った感からでしょうか。その段階で体調を崩してしまって(医療系の仕事をしてたのに)。コロナ禍も重なって、自分の働き方を考えるようになりました。

 

深瀬 そこでキャリアチェンジを考えるようになったのですね。

 

清水 コロナの影響はとても大きかったです。今まで当たり前だったものが当たり前じゃなくなって。「俺なんでこの仕事やってんだっけ?」とか、「この生き方、この先も続けられるのかな?」とか。自分と向き合う時間が多くなったと思います。

 

深瀬 たしかに、コロナをきっかけに行動を起こした方は多いですよね。

 

清水 自分もまさしくそのタイプです。幸いにも、前職絡みの仕事でお誘いをいただくこともありました。ただ、当時は自分がなにをやりたいのかわからなかったです。同時に、もともといた医療業界にこだわる必要はないとも考えていたため、そこから自分探しの旅が始まりました。

 

深瀬 自分探しですか。具体的にはなにをされたのですか?

 

清水 山登りをしたり、料理教室にも通ったりしましたよ(笑)。

 

深瀬 いろいろなことをしてみたのですね。そのひとつが農業だったのでしょうか。

 

清水 農業は、出身地である東京・練馬で1年間体験農園をしてみました。料金は1年間で3万円です。始めたものの、農業についてきちんと勉強してなかったので、インターネットなどで調べました。そこで農業が、自然との触れ合いやSDGsなど多面的な要素をたくさん含んでいることを知りました。野菜の栽培だけだった従来から、変革の時期に来ているなぁと感じ、農業に興味を持ちました。

 

深瀬 そうなのですね。実際、今までのキャリアから方向転換するのはとても勇気がいりますし、ご家族の理解もないとむずかしいですよね。

 

清水 私の場合は、妻がお金のことや将来のことも含め、とてもよく理解してくれました。私が今まで頑張ってきた姿を近くで見ていたので、妻も理解してくれたのだと思います。まだまだ子供もお金のかかる時期だったので、妻も大きな決断だったでしょうね。

 

深瀬 よく決断されましたね。

 

清水 そうですよね。現在の収入は、医療関係の副業の収入を入れたとしても前職よりも大幅に下がりました。以前と比較すると年収は約1/3。まだまだ農業だけでは食べていけないので、妻も仕事をしてくれることでなんとか暮らせています。練馬に戸建てを持っていますが、まだローンも残っています(笑)。

 

2:「農業研修×農業学校」で農業とのかかわりを深める

 

深瀬 ご出身の練馬区は、畑もたくさんあり、農地もみつけやすそうですが。

 

清水 たしかに家のまわりを見渡すと農地は空いてそうなんですが、農家さんや行政機関の窓口に確認すると実際はそうじゃないんですよ。練馬区は、農地自体はたくさんあるけれども貸してくれる方がいないらしく、「練馬区での新規就農はむずかしい」といわれました。

 

深瀬 それはなぜですかね。

 

清水 農家さんどうしだと農地を借りられる可能性はあるようですが、実績のない新規就農者が行政機関を通して探すとなるとむずかしいみたいです。ただ、今は農家さんの数も減っているので、練馬区の農地の多くは住宅地に変わってきているようです。

 

深瀬 そういう状況なのですね。

 

清水 そんなとき偶然出会ったのが、「繁昌農園」という東京・青梅にある農家さんでした。もともと農家出身じゃない方が東京で農業やっているという点に関心を持ち、そこで働くようになりました。

 

深瀬 「繁昌農園」に通われて、どんどん農業にハマっていったのですね。清水さんからみて、ご自分と農業はどんな関係とか教えていただけますか?

 

清水 自分自身が農業に助けられているのを感じましたね。農作物を作ったり、農業のある環境に身を置くことで、心が解きほぐされるような感覚がものすごくありました。結果として身体も元気になり、心も豊かになりました。お金ではなく、人間的な豊かさを農業から得た感じです。

 

深瀬 よい方向に変わっていったのですね。農業の技術や知識はどのように習得されたのですか?

 

清水 繁昌農園で働きながら農作業をすることで、実践的な技術や知識を身につけました。それとは別に、土日だけ株式会社マイファームが運営するアグリイノベーション大学校に通うことで、さらに知識や技術を身につけました。

 

深瀬 農業研修と同時に学校でも学ばれたのですね。

 

3:50歳で農業を始めるときに肝心なこと

 

清水 学校には50歳・60歳から農業を始めようという方も多く、刺激になりました。自分からみて、60代の方は定年後ということで経済的な自立をされていて、家庭菜園よりは少し本格的な農業を目指している感じでした。50代の人は、定年前に今の仕事を辞めて農業で経営をするか、仕事を続けながらひとつの生き方として農業をするのかと悩んでいる方が多かったです。

 

深瀬 清水さんにとって、50歳から始める農業はどう思われますか?

 

清水 「従来の農業のやり方を踏襲すると、50歳からの農業はむずかしい」という方もいますが、肝心なのは「どういう農業をやるか」ではないでしょうか。

 

深瀬 大事なのは年齢ではなく、どんな取り組みをするかだと。

 

清水 それほど大きくない規模の農地で、自然と共存するのを第一にするのも農業だと思います。それだとそんなに体力もいらないですし。仲間と一緒にやるというのも楽しいですよね。

 

深瀬 清水さんご自身は、今はどのような形で農業をやってますか?

 

清水 今は練馬から青梅の農園まで通っています。行政機関の窓口に相談して空き家を探しているのですが、空き家兼作業場が青梅の近くで見つかったら世帯分離(同居している状態を保ちながら住民票を別々に分けること。住民票のある市町村役場の窓口で手続き)して、住民票を分けようと思ってます。

 

4:農業に活かせた前職での経験

 

深瀬 清水さんは48歳から始められたので、国の支援策である新規就農者育成総合対策(旧:次世代投資資金)の対象ですよね。農業を始めるにあたって補助金はもらったのですか?

 

清水 厳密にいうと、補助金の基本対象は45歳までで、農業開始時期が49歳までであることが条件です。45歳以上は特別な技能がある場合にかぎり認める枠があるようで、そこに入れてもらった感じでした。特別な技能はなにか調べたら経営能力でした。前職の経験をもとに経営計画を作成したことで承認してもらいました。

 

深瀬 よく難解な行政文章をそこまで読み込みましたね。

 

清水 以前の仕事の関係で、行政機関の公的な文章に触れる機会が多かったからだと思います。抵抗感なく読めました。あの文章は、読み慣れていないとかなりむずかしいですよね。

 

深瀬 情報収集はどのようにしましたか?

 

清水 もともとベンチャー上がりなので、そのときの行動力を活かして情報はかなり集めました。それこそ「繁昌農園」や地元・練馬の農家さん、関東圏の農家さんに足を運んで情報を集めました。あとはさまざまな地域の行政機関にも訪問しましたし、「新・農業人フェア」にも参加しました。農業に関するイメージの解像度が上がるまで足を運びましたね。

 

深瀬 すごい行動力ですね。行政機関の窓口に行きづらい方もいますが、実際に行ってみてどうでしたか?

 

清水 いろいろな地方の窓口に行くことで、それぞれの特色がわかりましたね。窓口の方は必ずしも農業をやっているわけではありません。「(相談者に)失敗させたくない」という気持ちから、就農のブレーキ役になってしまうケースもよくあるみたいです。「農業だったらなんとなくできそう」と、軽い気持ちで相談に来る方も実際多いみたいなので。

 

5:農業の楽しさは「農業×◯◯」の広がり

 

深瀬 最後に、農業の楽しさってなんでしょう?

 

清水 農業の楽しさは、「いろいろなモノと接続できる」ところにあると思います。野菜を作って売るだけでなく、観光だったり教育だったり、「農業✕○○」の組み合わせがたくさんあるのが魅力です。もちろん、農業そのものにも魅力を感じます。

 

深瀬 農業に無限の可能性を感じているのですね。清水さんが農業をすることで、最終的に手に入れたいものはなんですか?

 

清水 農業によって、人は豊かになれることを自分自身が実感しました。そこで、みんなが滞在できる「アグリツーリズム」の拠点を、今農業をしている青梅に作りたいと思っています。自分の経験をもとにしてこれができれば、とても幸せです。

 

深瀬 最後に、これから50代で農業を始める人にアドバイスをお願いします。

 

清水 年齢が上がれば上がるほど、今まで残してきた実績や経験によって頭でっかちになってしまいます。インターネットや本で調べ、自分の考えと想像だけで答えを出してしまうことが多いように思います。まずは、できるだけ自分の感性にしたがって1歩を踏み出す。そして、現場のリアルな話を聞いて、そのうえで農業を理解する。そうやって、自分は「農業1年生」であることを自覚して始めるのがよいのではないでしょうか。

 


まとめ

48歳で農業を始められた清水さん。とてもイキイキと農業のお話をされていたのが印象的でしたが、決して平たんな道のりではなかったことが伺えました。そんな清水さんのポイントは、

1.    体調の事やコロナ禍で自分と向き合い、今の働き方に疑問を持った

2.    農業ありきではなく、自分の感情のままに行動した先で農業と出会った

3.    年齢的に補助金をもらえたものの年収が1/3

4.    情報収集は現地を訪問。目で見て耳で確認

5.    「農業×○○」と、農業から広がる部分で自分の将来の目標を見つける

 

*本コンテンツは『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』(深瀬貴範/小社刊)の付録として掲載しているものです。予告なく終了する場合がございます。こちらについてのお問い合わせは、下記までお願い致します。
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