山崎ナオコーラさん連載【未来の源氏物語】第5回「いわゆる『雨夜の品定め』」#3

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*イラストも筆者

平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。

しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、

多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。

そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。

 

第1回「どうやって時代を超える?」

第2回「見た目で判断していいの?」

第3回「『ロリコン』の読み方」

第4回「『マザコン』は悪いことではないけれど……」

 

 

第5回

「いわゆる『雨夜の品定め』


 

頭中将は、光源氏の人生に長く絡んでいく重要なキャラクターですが、この時点でもすでに、光源氏の最初の正妻である葵の上(あおいのうえ)の兄であり、「友人」という一言では済ませられない関係です。

地位は光源氏の方が高いので、頭中将は常に一歩引いた感じで光源氏に接していますが、恋においても政治においてもライバルです。

 

そんな頭中将の恋愛観を聞いて、光源氏は影響を受けます。

その後の左馬頭、藤式部丞の語るエピソードでも、やはり「中流の人」が恋愛にふさわしく聞こえてきます。

 

そうして、光源氏はその後、実際に「中流の人」たちとどんどん恋愛をしていきます。

『源氏物語』に登場する多くのヒロインが、生まれは高貴なのに今は落ちぶれていたり、父親の身分は高いのに母親の身分が低くて父親から放っておかれていたり、地方の受領(ずりょう)の妻であったりします。

 

身分が高い人は周囲から実際以上に仕立て上げられるから、というだけでなく、相手にちょっと劣ったところがなければ恋愛できないみたいです。

 

身分が高く、しっかりした才覚があって、ちゃんとプライドもある葵の上のような人とは恋愛関係を築けません。

 

ところで、葵の上とは政略結婚ですから、兄の頭中将は光源氏と葵の上の婚姻関係がうまくいくようにしなければならないはずで、「雨夜の品定め」で「恋愛相手は中流」と主張しているのはちょっとおかしいのですが、でも、「ホモソーシャル」ってこういうところもある気もします。

自分の身近な異性が不利になることを言うことで同性同士の仲を深められる、という考えがあるのではないでしょうか?

 

思い返せば

これって

「ホモソーシャル」?

 

 

中流がいい、といえば、現代のアイドルは、美人だったり、頭が良かったり、稼いでいたり、しっかりしていたりする人よりも、美人というよりはかわいらしい感じの顔だちだったり、勉強ができなかったり、貧乏だったり、悩みがちだったり怠け癖があったり発展途上の性格だったりする人の方が人気があるようです。

どうしてでしょうか? もしかしたらそれは、「応援する人たち同士で繫がりやすい」という理由もあるのかもしれません。

「ファン」「推し友」といった交流の中では、その人の優秀なところや立派な性格を語り合うよりも、「こんな抜けているところがかわいいよね」「下手なのに努力している姿を応援したいよね」と欠点を語り合う方が、仲が深まる気がします。

相手を人間として見て向き合うのではなく、横の繫がりを作るときのネタとして扱いたい場合には、立派な人よりは、抜けている人の方がちょうど良いのではないでしょうか?

また、「雨夜の品定め」の中で、頭中将は、「昔つき合っていた人との間に子どもが生まれたのだが、今はその恋人も子どももどこにいるのか、ずっと探しているのだが行方が知れない」というエピソードを切なく語っています。

実は、その恋人こそが夕顔なのです。

光源氏はこの「雨夜の品定め」のあと、ふとしたことで夕顔と出会って恋愛し、夕顔の死後、頭中将との子どもである玉鬘(たまかずら)ともめぐり会って引き取ります。

こういった、後のエピソードを知ってから読むと、「雨夜の品定め」で頭中将が光源氏にペラペラ喋っている姿が、なんだか哀れです。

それに、夕顔自身は、「雨夜の品定め」みたいな場所で自分の恋愛がネタにされることをどう感じるものでしょうか? とはいえ、頭中将がペラペラ喋る性格だからこそ、光源氏との仲が深まっていくわけで、「ホモソーシャル」のことを考えると、頭中将としてはこれでいいのかもしれません。

なんというか、異性を捧げ物のように扱うことで同性と仲良くなれる、という考え方がある感じがします。

 

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このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年5月号に掲載されたものです。

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