山崎ナオコーラさん連載【未来の源氏物語】第5回「いわゆる『雨夜の品定め』」#1

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*イラストも筆者

平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。

しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、

多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。

そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。

 

第1回「どうやって時代を超える?」

第2回「見た目で判断していいの?」

第3回「『ロリコン』の読み方」

第4回「『マザコン』は悪いことではないけれど……」

 

 

第5回

「いわゆる『雨夜の品定め』


『源氏』で考える

「ホモソーシャル」な

連帯感

 

「雨夜(あまよ)の品定め」と呼ばれる、有名なシーンがあります。

 

光源氏がまだ十七歳だった夏の夜のことです。

雨が降りしきる中、光源氏の家に、頭中将(とうのちゅうじょう)、左馬頭(ひだりうまのかみ)、藤式部丞(とうしきぶのじょう)といった同年代の友人たちが次々に訪れます。

まず、光源氏の一番の親友である頭中将が、隠しているラブレターがあるんじゃないのか? といった具合に光源氏をからかい始めます。

恋愛談義が始まり、そこに左馬頭、藤式部丞も加わりました。

それぞれ経験豊富であるらしく、笑いを交えて恋愛エピソードを語ります。

光源氏は澄まして聞き役に回っていますが、興味津々のようです。

 

「理想の恋愛相手はこんな人だよ」

「変な人を恋愛相手にすると苦労しちゃうんだよなあ」

といった雑談です。

 

現代においても、高校や大学の放課後に、似たような会話が、教室や友人宅で交わされているかもしれません。

 

この長い雑談は、『源氏物語』二つ目の帖「箒木(ははきぎ)」の巻の中にあります。

最初の帖の「桐壺」では光源氏はまだ子どもで、継母(ままはは)の藤壺を純粋に慕っているだけでした。

「箒木」から青春時代に入り、プレイボーイである光源氏の性格が少しずつ表現されるようになります。

ですから、「雨夜の品定め」の雑談は、光源氏の恋の冒険が始まることを知らせるベルのようにも読めます。

 

この「雨夜の品定め」というフレーズは、次の帖の「夕顔」の巻にある、「ありし雨夜の品定(しなさだめ)の後、いぶかしく思ほしなるしなじなあるに」という文章から取られました。

 

現代の読者がまず引っ掛かるのは、「品定め」という言葉ではないでしょうか? 「人間を商品のように扱ってはいけない」というのは今の時代ではよく言われることです。

人間に点数のようなものをつける、それも性的な評価を与えるというのは、やってはいけないこと、いわゆる「悪いこと」とされていますよね。

 

とはいえ、現代の恋愛談義にも、そういった「性的な評価」をネタにする会話は紛れ込んでいます。

それが「悪いこと」だというのは、聞いている人も、喋っている人も、意識していることが多いです。

特に若い人は偽悪的になりがちですから、青春時代の会話ではしばしば行われています。

おそらく、ちょっと悪いことをして、仲間意識を持とうとしているのでしょう。

 

最近では、「ホモソーシャル」という言葉をちらほら聞くようになりました。

ウィキペディアで「ホモソーシャル」を調べてみると、「恋愛または性的な意味を持たない、同性間の結びつきや関係性を意味する社会学の用語」とあります。

 

仕事仲間、趣味のグループなどで、同性だけで集まり、結びつきを強固にしようとするときがあるかと思います。

社会的な動物である人間は、恋人だけでなく、いろいろな友人、同僚、学校や会社の先輩後輩、先生と生徒などと、様々な関係を上手に築きたいものですよね。

相手と自分の性別が同じときに、「同じような恋愛してるよね?」「似たような結婚観だよね?」「こういう異性は嫌いだよね?」といった会話で仲良くなろうとしてしまうときもあるかもしれません。

異性愛に関する会話を同性の同僚や友人に強制してしまったり、異性を軽く扱うことで同性同士の絆を深めようとしてしまったりということも起きてしまいます。

実際には、同性愛者の人もいますし、恋愛に興味がない人もいますし、異性を尊重したい人もいるわけですが、仲間内で盛り上がるために、その場にいる全員が同じ興味を持っていると決めつけて盛り上がったり、仲間ではない人を蔑視することを前提に会話が進められたりします。

 

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このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年5月号に掲載されたものです。

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