山崎ナオコーラさん連載【未来の源氏物語】第4回「『マザコン』は悪いことではないけれど……」#1

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*イラストも筆者

平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。

しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、

多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。

そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。

 

第1回「どうやって時代を超える?」

第2回「見た目で判断していいの?」

第3回「『ロリコン』の読み方」

 

第4回

「『マザコン』は悪いことではないけれど……


母の面影を慕う源氏。

でも、慕われる

少女にとっては?

 

光源氏の母親は、桐壺更衣(きりつぼのこうい)という人でした。

 

更衣というのは、天皇の着替えを手伝う役職で、後宮(こうきゅう)にいる后妃(こうひ)の中でも身分が低いものとされていました(ただ、紫式部の執筆時に、すでに更衣という役職は宮中から消えていたようです。作中の時代設定は明確に記されていませんが、書かれている役職名などから推測すると、執筆時よりも五十年か百年前ぐらいを想定して物語を制作していたらしいのです。紫式部にとっても、更衣は「昔あった役職」だったのですね)。

 

ともかくも、人類は長い間、多くの場所で、血縁関係の中だけで統治者を継いでいく社会を作っていましたから、「統治者がたくさんの人と交わって子孫を繁栄させたら国が安定する」というのが一般的な考えでした。そして、「たくさんの人がいるのなら、序列を作った方が人間関係が安定する」とも思っていたんですね。平安時代の日本でもそうでした。

 

そんなわけで、平安時代の天皇は世継ぎを作ることも大事な仕事とされており、後宮に何人もの人が入れられ、その人たちは父親たちの身分によって順位づけされていました。后妃たちは家を背負って後宮に来ているので、天皇とのつき合いは、恋愛でもあるけれど、政治でもありました。

 

だから、桐壺帝が桐壺更衣を一番に愛したこと、桐壺帝と桐壺更衣の間から光源氏が生まれたことは、多くの人の悩みの種になりました。身分が高いとされている后妃たちが、「自分の方が愛されるべきなのに、なぜ?」と悲しくなってしまったのです。そうして、桐壺更衣は多くの人の悪意を身に受け、早くに亡くなってしまいます。

 

光源氏は自分の母親の顔も性格も才能もなんにも覚えていません。ただ、父親である桐壺帝や、周囲の人たちは、よく覚えています。だから「あなたのお母様はきれいだったんですよ」と教え込まれて育ちます。

 

桐壺帝は頭の中の「きれいな桐壺更衣」を想い続けるわけですが、天皇に仕える女官である典侍(ないしのすけ)から「桐壺更衣に顔が似ている人がいますよ」と聞くと、その人を探し出し、再婚します。その再婚相手である藤壺は、先代の天皇を父親に持つ人だったので身分が高く、周囲も納得です。ただ、そのとき、藤壺は十四歳でした。「少女婚」ですし、「ロリコン」ですし、現代の読書感覚においては、問題を感じますよね。

 

 

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このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年4月号に掲載されたものです。

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