山崎ナオコーラさん連載【未来の源氏物語】第3回「『ロリコン』の読み方」#4

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*イラストも筆者

平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。

しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、

多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。

そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。

 

 

第3回

「『ロリコン』の読み方


子どもと大人の

線引きは

変わっていく

 

 

「女の子は、男の子よりもしっかりしている」「女の子は頭がいい」「女の子の成長は早い」「十歳でも、小さなお母さんみたいだ」といったセリフは、現代でもよく聞きます。

褒め言葉として使われているみたいです。

少女を大人と同じように扱ったり、大人と対等に会話ができる存在として接したりもされます。

 

こういったセリフや扱い方を、「尊敬し、敬っているので、『女性蔑視』ではない」「下に見ているのではなく、上に見ているので、差別ではない」と考える人もいるかと思います。

でも、たとえ上に見ていても、「人間」「子ども」として尊重しないのは、差別なのです。

 

男性という性別を持つ人に質問してみたいのですが、性欲が湧いたときに大人の自覚も一緒に湧きましたか?

おそらく、「性欲のある子ども」になっただけで、分別はまだなく、大人になりはしなかったのではないでしょうか?

子どもにも性欲があります。女性という性別を持つ子どもにももちろん性欲が湧きますし、生理が始まりますし、顔立ちや体つきが魅力的になります。

そうなっても、まだまだ子どもなのです。

精神的にも肉体的にも、大人とは違う存在です。

 

世界にはまだ児童婚があります。

「生理が始まったら、結婚ができる」という誤認識は根強く残っています。

教育を受ける権利を逸し、未発達な状態で妊娠をして命を失う子どもがいます。

「子ども」という概念は、十八世紀にフランスで生まれました。

 

それまでは、「小さな大人」として扱われ、経済の道具として搾取される存在でした。

一七六二年にジャン=ジャック・ルソーによって『エミール』が書かれた辺りから、大人とは違う特別な時間を生きている存在として尊重されるようになりましたが、貧しさゆえに親や国が児童労働や児童婚を強いてしまうことはなくならず、特に少女を「子ども」として尊重する考えはその後もなかなか浸透していません。

 

「生理が始まったら大人」という感覚は、現代日本の中にもまだ少し残っているように思います。

今、世界的に性交同意年齢が引き上げられていて、アメリカでは十六歳から十八歳(州によって異なる)、イギリス、カナダ、韓国では十六歳、フランス、スウェーデンでは十五歳、となってきているようです。昨年、日本でも性犯罪に関する刑法の見直しが議論されたものの、性交同意年齢は十三歳のまま引き上げられませんでした。

 

たとえ生理が始まっても、「誰に心を開いて良いか判断する」「嫌なことがあったときに説明する」「性行為をきちんと理解する」といったことは、子どもには難しいです。

「ロリコン」は、多くの人の人生を傷つける文化なので、薄氷を履む思いで読むのが良さそうです。

 

ちなみに、光源氏のみの心の世界に浸って読む人が、「子どもだから好きになったわけではなく、紫の上だから好きになったんだ」「大人である藤壺の影を見ているので、子どもを愛しているわけではない」といった理由から、「光源氏は『ロリコン』ではない」と主張をすることがあるようです。

 

でも、加害側がどういう心持ちだろうが、子どもが恋愛の視線を投げられ、性行為を強いられたわけなので、ここは「ロリコン」という読みでいいんじゃないかな、と私は思います。

 

やまざき なおこーら|

作家。國學院大學文学部卒業。卒業論文は『「源氏物語」浮舟論』。

「誰にでもわかることばで、誰にも書けない文章を書く」が目標。近著に『むしろ、考える家事』。

 

 

第1回「どうやって時代を超える?」♯1へ

第2回「見た目で判断していいの?」♯1へ

 

 


このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年3月号に掲載されたものです。

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