山崎ナオコーラさん連載【未来の源氏物語】第3回「『ロリコン』の読み方」#2

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*イラストも筆者

平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。

しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、

多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。

そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。

 

第3回

「『ロリコン』の読み方


子どもに期待しても

いいことと、

すべきでないこと

 

ともあれ、光源氏は紫の上に出会います。

若い光源氏は、継母である藤壺を一番に慕いながらも、友人たちからの影響を受けて青春時代の恋の冒険に出ています。

夕顔との束の間の恋愛を楽しみ、その夕顔があっけなく死んでしまって悲嘆に暮れ、自身も病に罹ります。

病を癒やすために山の寺を訪れたところ、その庭で遊ぶ子どもを垣根越しに見て、驚愕します。

そう、その子どもこそ、藤壺に顔がそっくりな、紫の上です。

のちに、光源氏の生涯のパートナーとなります。

このシーンは、一番有名なのではないでしょうか?

紫の上との出会いにより、『源氏物語』最大の物語が幕を開けます。

 

「雀の子を犬君(いぬき)が逃しつる。伏(ふ)せ籠(ご)のうちに籠(こ)めたりつるものを」とて、いとくちをしと思へり。このゐたる大人、「例の心なしの、かかる技をしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。いづかたへかまかりぬる。いとをかしうやうやうなりつるものを。烏(からす)などもこそ見つくれ」とて、立ちて行く。髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。小納言の乳母(めのと)とぞ人言ふめるは、この子の後見(うしろみ)なるべし。尼君、「いで、あなをさなや。いふかひなうものしたまふかな。おのがかく今日明日におぼゆる命をば、何ともおぼしたらで、雀したひたまふほどよ。罪得ることぞと、常に聞こゆるを、心憂く」とて、「此方(こち)や」と言へば、ついゐたり。つらつきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる額つき、髪(かむ)ざし、いみじううつくし。ねびゆかむさまゆかしき人かなと、目とまりたまふ。さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてまつれるが、まもらるるなりけり、と思ふにも涙ぞ落つる。

(新潮日本古典集成『源氏物語 一』より)

 

[ナオコーラ訳]

「スズメの子を、犬君が逃しちゃったんだよー。私が伏せ籠に入れておいたのにさ」

子どもはいかにも残念そうな表情を浮かべている。

「犬君かあ。あの困ったちゃんは、またこんなことをして、良くないねえ。さあ、スズメの子はどこに行っちゃったんだろう。かわいらしく育ってきたところだったのに。カラスに目を付けられたら大変じゃないか」

髪がゆったりととても長く、清々しい見た目の人だ。「小納言の乳母」と周囲から呼ばれているので、この子どものお守り役なのだろう。

そこへ尼君がやってきた。こちらは子どもの祖母だろうか。

「まあ、いつまでも赤ちゃんみたいなことを言ってるねえ。聞き分けのないこと。私は病気で今日明日もわからない命なのに、あなたはなんとも思わないでスズメを追いかけているなんて。『早くしっかりしてね』といつも言っているのに一向に幼くて、心配でたまらない」

と言いながら、「こっちへおいで」と手招きした。

子どもは尼君の側へ寄り、ひざまずく。頬がぷっくりといたいけで、眉毛のあたりはほんのりと美しい。子どもっぽく前髪を掻き上げたおでこ、生え際、とてつもなくかわいらしい。

これから大人になっていくのが楽しみな人だなあ、と光源氏はじっと見つめる。ふいに、「ああ、僕が限りなく憧れている藤壺にこの子どもはとても似ている……、だから……、目が離せないのだ」と気がつく。涙が落ちてきた。

 

平安時代の恋愛物語は、「垣間見(かいまみ)」から始まることが多いです。

性別が違う者同士が直接に挨拶を交わす機会は少ないので、一方的にこっそりと見て、「好きだー」となり、手紙を送ったり、夜に忍び込んだり、といった行動を起こします。

 

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このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年3月号に掲載されたものです。

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