山崎ナオコーラさん連載【未来の源氏物語】第3回「『ロリコン』の読み方」#1

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*イラストも筆者

平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。

しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、

多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。

そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。

 

 

第3回

「『ロリコン』の読み方


源氏が

紫の上に向けた

視線を考える

 

「『源氏物語』のモラル逸脱問題」と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、「ロリコン」ではないでしょうか?

光源氏が幼い紫の上を自分の家に引き取って自分好みに育て上げた……、というエピソードは、『源氏物語』に関心のない人たちにも広く知られています。

 

日本人は長い間、噂話や雑談の中で、または小説や漫画作品の設定で、「光源氏が紫の上を育てたみたいにさ……」と喩えてきました。

アニメやアイドル文化が盛んな現代日本では、さらにどんどん「ロリコン文化」が花開いています。

 

プロデューサーが少女アイドルをプロデュースしたり、プレイヤーがゲームの中の少女を育成したりといったことを、面白いものとして多くの人が受け入れています。

東京の街を歩いていると、「少女は尊い」「少女を応援しよう」といった雰囲気の価値観にあちらこちらで出会います。

それらは、決して悪意から生まれたものではいないし、面白さやファッション性が発展していて、良い面もあります。

 

でも、忘れてはならないのが、「少女は、子どもである」ということです。

社会は、子どもの権利を守り、慈しみ、教育の機会を与えなければなりません。

「ロリコン」という言葉に正確な定義はないですが、「子どもを恋愛対象として見ること」を指しての使用が多いようです。

子どもの年齢にも絶対的なルールはありませんが、十八歳以下を相手としている場合によく「ロリコン」が使われています。

 

ちなみに、「ロリコン」はロリータ・コンプレックスの略で、ウラジーミル・ナボコフによって一九五五年に発表された小説『ロリータ』に由来するものです。

『ロリータ』は言葉遊びが楽しく、滋味深い現代文学ですが、「十二歳の子どもを三十代の大人が車に乗せて連れ回す」というのがメインのシーンになる、結構な反社会的ストーリーです。

 

ただ、この作品のヒロイン、「ロリータ」という愛称で呼ばれる十二歳のドローレス・ヘイズは、大人であるハンバート・ハンバートを断固拒否し、結果的には逃げて、他の恋人を見つけるところまでは行けます。

 

紫の上は、ロリータよりも幼いです。

そして、光源氏の理想通りに成長し、光源氏の希望通りに妻になります。比べてもしょうがないですが、『源氏物語』におけるヒロインの傷は、『ロリータ』以上に深い感じがします。

光源氏と紫の上が出会う「若紫」の巻で、光源氏は十八歳、紫の上ははっきりしませんが十歳ほどのようです。

 

八歳という年齢差はまったく問題ありません。

たとえば、二十八歳と三十六歳だったら、気にならないですよね。

つまり、年齢差はどうでもよく、相手が子どもということが大問題なのです。

 

子どもに対して、「美少女だ」「これからもっときれいになるぞ」「性的魅力を持つ女性に成長できるよう、応援してあげるね」と声をかけるのは、たとえ善意からでも、恐ろしいことです。十歳の子どもに対して性的魅力の物差しを振りかざせば、その子の存在をどんどん軽くし、精神衛生を汚し、人生をねじ曲げてしまいます。

 

自己決定をするための勉強、発言を自由にできるようにするための教育、といったものを全然受けられず、性的に魅力を持つための訓練のみを受けるのであれば、その後の人生は闇に包まれます。

 

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このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年3月号に掲載されたものです。

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