山崎ナオコーラさん連載 【未来の源氏物語】第2回「見た目で判断していいの?」#2
*イラストも筆者
平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。
しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、
多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。
そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。
第2回
「見た目で判断していいの?」
ただ、平安時代では、高貴な人は他人にほとんど顔を見せません。御簾(みす)や几帳(きちょう)や屏風の影でヒロインたちは顔を隠しています。
光源氏のことも、直接に顔立ちを見るのは側近などに限られていたようです。
「顔を見られないようにしている」ということは、やはり、当時の人たちも、ヴィジュアルの恐ろしい力、顔を知られることでときに怖い事件が起こることを、薄々知っていたのではないでしょうか?
マナーはまだ確立されていないけれども、ヴィジュアルのパワーは知られている。
そんな時代ですから、容姿に関する噂話が盛んになります。
噂話の出元は大概、その高貴な人に仕えている女房たちです。
お姫様が良い人と結婚すれば、そのお姫様に仕えている自分たちの経済的な安定に繋がり、自分の未来も明るくなるわけですから、女房たちは大概、「うちのお姫様はきれいだ」と褒めそやします。
噂を耳にした人は興味をそそられて会いにいきます。
ストーリー上、そのお姫様が本当に美しい場合は、大抵なんらかの偶然が起こって、垣間見ることができます。
風だの猫だのの仕業で御簾がめくれ上がったり、たまたま庭に出ているところを生垣(いけがき)の外から覗いたりして、「ああ、噂通り、きれいだ」と恋が始まるわけです。
ただ、電灯のない時代ですし、薄暗がりで恋愛を進めることだってできるわけです。
夜に忍んで会いにいって、顔がわからないままで結婚まですることもあります。
ストーリー上、ヒロインがいわゆる「美人」ではない場合、こちらの路線で恋愛物語を進められるようです。
このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年2月号に掲載されたものです。
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