山崎ナオコーラさん連載【未来の源氏物語】第1回「どうやって時代を超える?」♯5

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*イラストも筆者

平安時代の昔から現代まで、多くの人に愛されてきた『源氏物語』。

しかし、古代日本の価値観を背景に書かれた物語は、身分、見た目や性別による偏見が描かれ、

多様性を重んじる時代の価値観から見ると違和感を覚えることもあるでしょう。

そんな『源氏物語』を今の視点で楽しむには? 新たな「読み」の可能性を考えます。

 

 

第1回

どうやって時代を超える?」♯5


「不倫が嫌いだから、不倫小説は読めない」というのは、もったいないと思います。

平安時代の読者は、ヒロインが無理やり連れ去られるシーンでも素直に受け取ってうっとりと耽溺し、浮気をしたあとヒロインに対して許して可愛げを見せることを勧める光源氏に「そうだよね」と頷(うなず)きながら読んだことでしょう。

 

でも、現代を生きる私たちは、連れ去られるヒロインを見て「これって、犯罪だよね?」だとか、浮気に対するヒロインの態度を諫(いさ)める光源氏に対し「許せん、怒って当たり前だ!」だとかと思いながらページをめくることになると思います。

平安時代の読者にはできなかったことです。現代ならではの楽しみ方があるはずです。

そういう意味では、社会規範にも永遠の生があるのかもしれません。

その時代の社会規範を知ったとき、「人間は変わらないな」と思うことはありませんか? 今とは違う差別が語られていて、憤りを覚えるくらいなのに、人間のどうしようもなさも感じて、読書が面白くなった、という体験はありませんか?

 

次回から、社会規範をひとつずつ取り上げ、「こんな読み方をしたら、面白い読書になるかもしれませんよね?」といったことを、読者のみなさまと一緒に考えていきたいです。

たとえば、「文学においては、恋愛といえば不倫」というくらい、古今東西に不倫小説がたくさんあります。しかし、不倫小説を賛美したからといって不倫を肯定することにはなりません。

不倫小説を読むのは、不倫を勉強するためでも、不倫を研究するためでもありません。読書を楽しむためです。

文学で大事なことは、ページをめくることです。

 

やまざき なおこーら|

作家。國學院大學文学部卒業。卒業論文は『「源氏物語」浮舟論』。

「誰にでもわかることばで、誰にも書けない文章を書く」が目標。近著に『むしろ、考える家事』。

 

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このエッセイは「茶のあるくらし」をビジュアルに提案する月刊誌『なごみ』2021年1月号に掲載されたものです。

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